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Selfishly

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S,P4 「見えない影」


スローライフ S 


          Pa 4 「見えない影」

            H18,11/7 02:30


ロイは執務室で、何をするでもなく
頬杖をついた状態で座っている。
余り機嫌が良くないのは、頬杖を付いている逆手で
苛苛と机を弾いている指の仕草でもわかる。

朝から、余り機嫌が宜しくなさそうな上司の様子に
触らぬロイに、なんとやらと、軍のメンバーも
傍観を決めている。

部屋に残っているハボックとフュリーが
顔をつき合わせて、コソコソと話し合っていた。

「今日はどうしたんでしょうね、中将。
 いつも、休日空けは機嫌がいいのに。」

「さぁな、でも どうせ大将絡みの事だろうから
 俺らも関わらない方がいいぜ。

 どんなとばっちりを喰うか、わからんからな。」

過去に、それで痛い目をみさせられたハボックは
自分の経験からの教訓を話す。

「ケンカでもしたんでしょうか?」

「いんや~、出掛けは いつもと変らん感じで
 と言うか、いつも以上に気にかけて話し込んでたから
 ケンカしてるって感じには見えなかったぜ。」


そんな風に話している二人の会話を耳にしながらも
ホークアイは、別段 口も挟まず
用意できた書類を持って、ロイの部屋に入っていく。

「失礼します。

 こちらが、現在のところ 今週分の決済書類です。」

高く積まれた書類は、まだ1山分しかないが
週明けで この量だ、週末が近づくまでに
一体、どれ位の数になるのかと、
ロイは うんざりする気分で、書類の山を一瞥する。
今までなら、エドワードと週末を過ごす為にと
嬉々としてこなしていた事も、
そうでなくなった今は、鬱陶しい仕事なだけだ。

それでも、週末に しかも、早めの時間で切り上げて
列車に乗らなくてはいけないとなると
早め、片付けておかないことにはと、
渋々ながら、書類に手を伸ばす。

これからしばらく、こんな気持ちで仕事に取り組まなくては
いけないかと思うと、知らず知らずの内に
ため息を付く回数が増えている。

そんなロイを、ホークアイが もの言いたげに見ているのだが
自分の考えに気を取られすぎているロイには
わかりようもなかった。

ロイは、のろのろとペンを進ませながら
昨日のエドワードとの会話を思い出す。

エドワードは、ロイが思っていたように
ディビット達と遊びに出かけていたようだった。
それ自体は、なんら 問題はない。
それを伝えようとしたエドワードの会話を切ったのは
行きを急いでいた自分の方だから、
自分の抱えていた心配は、自業自得だ。
それ位は ちゃんと理解できる程度には
ロイも冷静ではいれたと思う。

「ダンスパーティー!?
 
 ・・・君がかい?」

ロイは、意外な話を聞いたとばかりに驚きを示す。

「うん、ディ達に誘われて、最初は断ったんだけど
 レイも、1度くらいは参加してもいいんじゃないかって言うからさ。

 まぁ、参加だけでもしてみようかと思って。」

その時の話を道々にしながら、二人は家路についていた。

「そうか・・・。

 しかし、君がダンスパーティーね。

 踊れたとはしらなかったな。」

内心の複雑な思いは現さず、楽しそうに会話を続ける。

「馬鹿にすんな! と言いたいところだけど、

 実は、最初に断ったのも 俺、ダンスなんて踊った事ないからさ、
 無理だって言ったんだ。」

楽しそうに笑うエドワードの表情は明るく、
やましさも後ろ暗さもない事は、ロイにも見て取れた。

「じゃあ、どうしたんだい?」

そんなエドワードの表情に、少しだけ気分を浮上させ
ロイも可笑しそうに続きを促がす。

「うん、それなら 俺が教えようってレイに教えてもらったんだ。」

「・・・彼が?
 
 一体、どうやって・・・。」

レイモンドの名前が出てくると、ロイの口調のトーンが
低くなるが、エドワードには気づかれなかったようだ。

「ああ。
 あっちに行って、レッスンしてもらったんだ。」

何事もなかったように、当たり前に答えるエドワードに
聞いたロイの方が、耳を疑う。

「あっちって、ダンスホールでかい?」

まさかと思いながら、聞き返してみる。

「そう、ダンスホールで。
 まるで 実地訓練だよな。」

とエドワードは、可笑しそうに笑う。

その後、エドワードから レッスンの話や
その後、踊っていた時の話を聞いていくうちに
どんどんと無口になっていくロイの様子に
さすがに、エドワードも妙に思い
ロイの様子を窺ってくる。

「ロイ?
 どうかしたのか?」

「・・・いや、何でもないよ。」

薄い笑みを貼り付けたロイの表情に
エドワードの顔も強張る。

「・・・行かなかった方が良かったかな?」

やはり、ロイの承諾も得ずに出かけた事は
拙かっただろうかと思い始めたエドワードが
聞いてくる。

「いや!
 そんな事はないよ。

 折角の機会があったんだから、
 1度参加してみる事はいいことじゃないか。」

ロイが慌てて返す返事にも、エドワードは納得していない様子を見せる。

「・・・いや、本当に構わないんだ。
 私は 週末に居てやれないからね。

 一人で待ってもらってるより、
 そうやって皆で出かけてもらっている方が、
 私としても嬉しいよ。」

「ならいいんだけど・・・。」

考える素振りを見せるエドワードに
大人気ない態度をしたと気づいたロイが言葉を足す。

「いやただ、君にダンスを教えるのは
 私がしてやりたかったんで、
 少し残念、だっただけなんだ。」

これは本音だ。
いつかエドワードの社交デビューの暁には
自分が完璧なエスコートぶりを教えようと計画をしていた。
だから、それにも確かに少しガッカリもしたのだ。

ロイの少しだけ示した本音の言葉は
エドワードにも伝わったらしく、

「なんだ、そんな事か。
 いいじゃんか、俺がおしえてもらったのは
 1つだけだから、また 違うのを教えてくれれば。」

と明るさを取り戻して答えてくる。

「ああ、そうだな。
 ぜひ、次は 私が教えよう。」

そうロイが返事を返すと、エドワードも嬉しそうに頷く。

「・・・で、また今度も出かけるのかな?」

極力、内心を悟られないように
さりげなく、自分が気にかけている事を聞いてみる。

「今度って、今週?

 いや、別に もう行く予定もないし。」

ロイの複雑な心境が伝わったわけではなさそうだが、
エドワードは あっさりと否定を返す。

「どうして?
 私に気を使ってなら、そんな必要はないんだよ?」

ロイは内心の思いとは逆に、そんな風に聞いてみるが
エドワードは ごく普通に行かない理由を語る。

「う~ん、別に楽しくなかったからってわけでもないんだけど、
 
 特に毎回、行きたいって程でもなかったし、
 別に、行かなきゃいけない決りがあるわけでもないそうなんで、
 俺としては、1回知っていれば、もういいかなって気分なんだ。」

そう、あっけらかんと語るエドワードに
ロイは内心、安堵で胸を撫で下ろしたが
一応、大人の余裕を見せるために
誘いがあったら、行っておいでと寛容な言葉を告げておく。

その後は、残り少ない休日を エドワードと楽しく過ごした。


そんな昨日の会話を思い出し、不愉快な気分はなかなか消えてなくならない。

ロイとて、嫉妬深い主のように
エドワードの全てを拘束しよう等とは思ってはいない。
彼には、今まで経験できなかった学生生活を
楽しんで欲しいと願ってきたし、今も そう思っている。

が、頭で考えているのと、自分の中に生まれる感情とは
一緒ではないと言う事だ。

レイモンドは相変わらず抜け目のなさが、鼻につくし
自分の知らない女性の登場にも、不快感が湧く。
エドワードには、特に悪気もなければ
やましい気持ちも微塵にないのだから、
ロイが気にしなければ良いことなのだが
1番、一緒に居れる時間を離れなくてはいけない事は
今回のように、自分の知らない相手の行動が生まれるという事に
1番の不愉快を生じている。

そして、その元凶が自分にある事も良くわかっているだけあって
どうしようもないジレンマが生じると言う訳だ。

厄介な頼みごとを運んできた老将軍を、
少しだけ恨めしく思う。

が今は取り合えず、後にエドワードと約束した休暇だけを
待ち望んで、しばらくは耐え続けて行くしかない。

そんな風に、無理やり気持ちを切り替えて
ロイは、遅々として減らない書類の山に
手を伸ばしていく。



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